世界的な規模で起こりつつあるビジネス環境の著しい変化
近年のITの目覚しい発展、特にインターネットの爆発的な普及は、世界中の企業に対し、これまでのビジネスのあり方に根本的な変革を迫る状況を生み出している。このことは単にITが今までの業務プロセスを合理化し得るというレベルをはるかに超えて、業務プロセスのあり方自体をIT時代に相応しいものに改革していかないとグローバルな競争市場で生き残り得ないという、経済社会の大変革が世界的に押し寄せつつある状況と言っても過言ではないであろう。
このような環境変化へのダイナミックな対応を見せた企業として、デルコンピューターがあげられる。同社のインターネットによるダイレクト販売は店舗を持たず、在庫を大幅に圧縮することにより、顧客個々の仕様要望に応じながらもパソコン販売価格の大幅な低下を実現させた。さらにシスコシステムズ等の企業は、自社の研究開発情報をネット上に公開し、世界中からアイディアや助言を得ることにより、年間の研究開費の大幅な削減を実現している。自社の研究開発情報を公開するなど以前は全く考えられなかったことが、逆に市場での競争優位性を生み出しているのである。欧米においては、このようなIT革命の波に各産業界が積極的に対応しつつある。そのひとつがインターネット上での企業間電子商取引の拡大である。企業対企業の電子商取引市場は通称eマーケットプレイスと呼ばれ、米国においては1998年から本格的に立ち上がり始め、2000年には小規模なものを含め7000近くのeマーケットプレイスが取引を実施している。
米国電力業界の対応
米国の電力業界においても着実にeマーケットプレイスの立ち上げが進みつつある。Consolidated Edison、Duke Energy、PG&E Corporationなどの電力会社21社が2000年の6月に資材調達のためのeマーケットプレイスであるPantellos(本社ウッドランズ、テキサス州、資本金1億ドル)を事業化し、2001年の1月3日より取引サービスを開始した。Pantellos はインターネットを利用しての資材調達の合理化やサプライ・チェーン・マネジメントの実現、さらにはプロジェクト・マネジメントのサービスなど、参加メンバー企業に多様なサービスメニューを提供する巨大なeマーケットプレイスである。ホームページ(http://www.pantellos.com)にはすでに膨大な情報が掲載され、その内容やデザインも頻繁に追加・更新されることから、出資者である米国やカナダの21電力会社の並々ならぬ意気込みが感じられるマーケットプレイスである。このほかにもAllegheny Energy、Allete、PPL Corp.などの北東部の7電力会社が出資して立ち上げたeマーケットプレイスであるEnporionが昨年11月より取引サービスを開始しており、米国電力業界におけるeマーケットプレイスでの取引は今年から本格化してくるものと思われる。
ジャパン・イーマーケットの事業化
IT化による大変革は、もちろんわが国の電力業界にとっても無縁の話ではない。東京電力をはじめとする電力各社は世界で指折りの設備産業として、よくも悪くも過去その巨大なバイイングパワーにより、日本の産業界への大きな影響力を保持してきた。しかしながら、過去10年間の規制緩和やIT化の進展はこれまでの電力会社の資材調達業務のあり方を根本的に見直すことを迫っている。それは単に資材調達業務の効率化や購入価格の低減を進めることにとどまらず、既存の調達先の抜本的な見直しや業務上調達すべき物品のあり方(各社独自仕様から標準化・汎用品化へ等)、さらには流通や在庫管理等についての見直しをも含めた、業務のあり方自体の変革を大きく迫ってきている。そのひとつの対応として、各社で資材調達の電子化を進める動きが本格化してきている。例えば、東京電力においては既存の専用線を使ってのEDIに加え、昨年の6月にはインターネットを活用して全ての調達業務を電子化し、調達コストの削減を図っていく方針が示された。この中では、汎用品を中心とした物品の購入においては、eマーケットプレイスを活用していくことも謳われている。このような動向に積極的に対応していくため、東京電力、関西電力、中部電力の3電力会社と三菱商事、三井物産はeマーケットプレイスを事業化していくことで合意し、昨年夏にはその準備に着手した。以降、事業化へ向けての作業を進め、昨年12月14日に「株式会社ジャパン・イーマーケット」が正式にスタートした。前述した事業発起人5社に加え、電力関係資機材のサプライヤー代表として、東芝、日立製作所、三菱重工業、三菱電機の4社にご出資いただいたことにより、ジャパン・イーマーケットの市場としての中立性を確保することもできたと考えている。また、敢えて電力会社が中心となって合弁でeマーケットプレイスを事業化したのは、外部のeマーケットプレイスに各電力会社が参加するという受身の合理化に身を委ねるのではなく、複数の電力会社がコミュニティ方式で事業化することで、取引物品の対象範囲を拡大するとともに、電力会社同士が全社的な資材調達の合理化を競い合うことにより、業界全体で積極的な合理化を図ろうという意思の現れでもある。
特筆すべきは東京、関西、中部のいわゆる中央電力3社が各々の競争力強化のために、新規ビジネスを事業化することに積極的に賛同したことであり、加えて非常に短期間での事業化を実現したことである。そして、これらのこと自体が画期的なことでもあり、(世間の期待に反して?)IT時代に相応しいスピードを伴った対応能力をわが国の電力業界自身が示した意義は非常に大きいと考えている。
事業化の意義と今後の展開について
最初にも述べたとおり、IT技術は単なる業務プロセスの効率化のための手段ではなく、業務プロセスのあり方自体の変革も迫るビジネス上の革命とも言える大きな潮流である。この流れに積極的に適合していくためには、ジャパン・イーマーケットのサービスも単なる資機材の調達手続きをインターネット上で行うという効率化だけを狙いとしたものではない。
とりあえず今年の3月の営業開始においては、事務用品や火力発電所用のパッキンなどのガスケット類、圧力発信器などの製品を中心とした電子カタログによる製品の検索と閲覧、さらには同種製品の比較、カタログ上に掲載されている物品の購入や逆オークションによる物品の購入が実現される予定であるが、これは初歩的な基本サービスに過ぎない。以降、順次サービス内容の充実を図り、例えば取引対象も電力関係から、他のエネルギー産業に広げることや、物流構造の改善や効率的な決済のサービスを実現していくこと、さらに参加企業のサプライ・チェーン・マネジメントの実現、バイヤー企業とサプライヤー企業との各種製品の共同開発(コラボレーション)の実現を図っていきたいとも考えている。また、前述した米国の有力な電力eマーケットプレイスであるPantellosやEnporionと連係することにより、海外を含めた取引の拡大を図り、電力業界やエネルギー業界の資材価格並びにその調達コストの大幅な削減の実現も目指していきたいと思っている。このeマーケットプレイスの究極の目標は、ここでの取引を通じて、各電力会社に自社の独自仕様の製品を標準化、または汎用化することによる利益が大きいことを認識していただき、その実現を図っていくことと考えている。電力関係資機材には、安定供給に対する責任の重圧や地域事情等々、製品のスペックの標準化や汎用化が安易に進められない諸事情が確かに存在する。これまでも、電力大で製品の標準化を図ることがが電事連などで取り上げられてきたものの、一定の成果を納めたとは言えない状況にある。しかしながら、自由化の進展という電力業界の事業環境が大きく変化しつつある中で、競争市場の中で標準化や汎用品の活用を自ら積極的に図っていくことが、各社の競争力強化に直結してくるということが理解される状況になりつつある。ジャパン・イーマーケットはそのインセンティブを常に電力会社などに提供していきたいと考えている。そして、各種製品の標準化と汎用化が進んでこそ業務プロセス自体の変革が実現され、IT時代に相応しい競争力を備えた電力業界が誕生すると確信している。
以上
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